第1章 五条悟の婚約者
椿と婚約して15年。
初めて浮気がバレた瞬間だった。
しかし、椿は悟を一瞥すると、そのまま襖を閉めないでその場を離れた。
開かれたままの襖から、椿の後を追う様に、一条昴の姿が見えた。
一瞬だけ合ったその目線に、悟は顔を顰めた。
「……大丈夫ですか?」
2人が居なくなったのを確認して、女が聞いて来た。
祈る様に握られている両手が震えている。
自分が発した陰口を椿が聞いていなかったか、気が気じゃないようだった。
当たり前だ。
お遊びがバレた相手があの伊集院財閥の令嬢なのだから。
目の前の女に、制裁を加える事なんて、目線1つで可能だ。
(……なら、黙って抱かれていれば良かったのに…。)
その手の震えが、自分が言った言葉を後悔しての事だと分かっている。
「……大丈夫でしょ。」
僕はね。
多分…。
椿は僕のことが好きだから。
この結婚を決めたのは、椿本人の意思なのだから。