第2章 イかれた婚約者
やっぱり一条昴は気に入らない。
危うく椿の露わな姿を昴に見られる所だった。
せっかくいい気分で帰れそうだったのに、結局苛々している事に舌打ちする。
「ねぇ、お嬢様の婚約者見た?」
ボソボソッと聞こえて来たメイド達の声に、悟の足が止まった。
普通の人から絶対聞こえない様な距離と音量だが、悟は違う。
興味がある内容に、その会話に耳を傾けた。
「何か目隠しして歩いてたけど、アレ見えるの?」
「何処かのご子息らしいけど……『やっぱり』ね…。」
悟が訳ありの様に言われて、不愉快な気持ちをそのまま顔に出すが、メイドが発した言葉は悟の想像の上をいく。
「あの『イカれた令嬢』にまともな婚約者が名乗り出る訳ないモノ。」
クスクスッと笑いながら、椿の話をするメイド達の声には覚えがある。
あの笑い方は心底椿を馬鹿にしている。
自分が抱いた女達の、椿を屈辱する声色にそっくりだった。