第9章 よくない変化
睨んで悪態でもつかれるかと思ったけど。
怒ってるでもなく、少し目を伏せてなにか伝えたいそうだった。
あんな視線は悪夢でも見たことがない。
(仕事が欲しいんじゃないなんて…。)
そんな言葉を望んでいた訳じゃない。
悪夢のような直哉から逃げたかったのに、なぜ彼は夢と違う言動をしてくるのだろう。
「『誰』のこと考えてる?」
悟の言葉でハッと気が付いた時には、もう車の中だった。
悪夢と現実の直哉の変化に頭を奪われて、目の前の悟のことを忘れていた。
一緒に帰ることにしたのだろうか。
当たり前のように隣に居る悟を見上げた。
「…ただ考えごとをしてただけよ。」
椿の言葉が言い終わる前に、悟の手が椿の手の甲を掴んだ。
「話があるから、今日も一緒に居てくれる?」
上の空だったことにはそれ以上触れずに、もう片方の手で、黒いベールの下の椿の頬を撫でた。
椿は特段頬を染めることなく、静かに頷いた。
そんな椿をしばらく見たあと、悟は運転手に行き先を伝えた。