第8章 視えない悪夢
撫でるように直哉の指が、椿の手の甲を滑った。
椿はサッと、直哉の手から自分の手を遠ざけた。
「…おかしなこと言うのね、直哉くん。悟は私の婚約者なんだから、彼になにかされるはずないじゃない。」
実際は監禁まがいなことをされたが、直哉に弱みなど見せたくない。
明らかに自分を避ける椿に、直哉の笑顔も薄らいでいく。
自分に懐かない、椿に苛立っているのだろう。
実際、悪夢に比べれば、直哉は紳士的に椿に接している。
だけど、その姿は紛い物で、その笑顔の仮面を剥がせば、自分を死に追いやった時の直哉の顔が見れるはずだ。
それが分かっているから、現実では直哉を避けているのに、どういう訳か、直哉は椿に執着を向けている。
「…ねぇ、直哉くん。私達だって長い付き合いだもの。禪院家には無理だけど、直哉くんになら少し仕事を回したっていいわ。」
「はぁ? 別に仕事欲しゅうて言うたわけや……。」
「だけど、悟の代わりはダメよ。直哉くんじゃ悟の代わりにはなれない。」