第7章 慕情
「良かった。本当に死んじゃったらどうしようかと思っちゃった。」
明るく笑いながら部屋に入って来た悟が昴の前まで来ると、その頭を鷲掴みにしてグリグリと撫でた。
「……死ぬわけないだろ。ほとんどあんたの血じゃないか。」
悟の手を振り払うように首を振りながら言った。
この男は確かに昴の首に傷を付けたが、それ以上の傷を自分の腕に付けた。
その光景を見て、驚いて目を見開いている昴の耳元で、小さな声で囁いた。
『犬らしく、大人しく伏せて待ってろ。』
昴は訳もわからずに悟の指示に従った。
隣で発狂している自分の主に憐憫の目を向けるも、悟の動向の方が気になっていた。
「…僕は椿が何に怯えているのか知りたいんだ。」
そう言った悟の目は少しだけ伏せられた。
昴は何故かそんな心情を察してはいけない気がして、そんな悟から目を逸らして言った。
「…あんなことしなくても、あの人は夜が更ければ勝手に発狂しますよ。」
イカれた令嬢の名前の通りに。