第6章 狂気の月
「僕の婚約者のベッドに無断で入ったしつけ?」
そう笑顔で言った悟の顔に。
椿は背筋がゾクっとした。
嫌な汗が自分の体から流れているのが分かる。
心臓が異常なほど強く鼓動を打っている。
それが目の前の婚約者だと言う男から放たれている異様な空気だと言う事だけは分かった。
…まるであの悪夢の…。
気持ちの悪い呪霊と対峙した時の様に重い空気だった。
椿はこの感覚を知っている。
いつも夢の中で、この感覚を味わった後に、無残な死を迎えていたからだ。
「……悟……私……。」
まるで命乞いの様に悟の顔を伺っている。
眉を垂らして引き攣った顔をして自分に擦り寄ろうとする椿に、悟はゆっくりと目を伏せた。
「安心してよ、犬っころにはもう満足してるから。」
再び目が合った悟の笑顔は、更に椿を追い詰めるモノだった。
悟は間違いなく、今は昴ではなくて椿に怒りを向けている。