第5章 独裁者
「…私から離れる事はダメよ。週末には五条家に行くわよ。」
「……………。」
椿の無慈悲な命令にも昴は何も言わない。
何も言えないのだ。
口の中も大きく傷付き、呼吸をするだけで顔が痛む。
声を出す事なんて出来なかった。
それが昴が納得したと言う事では無いと分かっている。
返事が無いのは、ただ出来ないからだ。
だけど椿は知っている。
例え今言葉を交わせたとして、彼が出来る事は不満を顔に表す位だ。
昴は絶対に椿の命令には背かない。
戸惑っている医者には、この場で出来る限りの治療をしろと言った。
医者は椿の命令に従った。
昴の治療を始める医者の側に椿も座り、その様子をジッと見ている。
一瞬死んでしまったのでは無いかと思えた昴の様子も。
痛みに顔を歪めたり、呼吸が荒くなる。
その様子を見て、椿はやっと昴が死ななかったと安堵出来た。
同時に湧き上がる悟への怒り。
悟が昴に手を上げた事は許し難かった。
どう言うつもりで悟は昴に手を上げたのだろう。
椿は先程の光景を思い出しながら、腕を組んで口元に手を添えた。