第5章 独裁者
しかしそれはあくまで、眠りにつくまで抱き締めて貰っているだけだ。
昴の唇がこの体に触れた事は無い。
だけど、それを今の悟に告げた所で何の言い訳にもならなさそうだ。
「…貴方が考えている様な関係じゃ無いわよ。」
うんざりする様に椿は言った。
椿は悪夢を見続けて、男に縋る事がどれほど無駄な事かを知っている。
そんな人生は夢でだけで十分で、現実に求めたりしていない。
1人の男に縋らなくても良い様に、それこそ努力した。
訳の分からない呪術界の事も。
孤高の頂きに居続けるなら、情勢や政治だって常に把握している。
自分の会社だけでなく、1人で生きていける様にそれこそ必死に生きてきた。
そんな自分が男との色恋に巻き込まれて、重要な昴を壊されるのは腹立たしかった。
「誓ってもいいわ。私は潔白よ。」
椿は両手を上げながら、ため息を吐いた。
もうこんな面倒くさいやり取りはごめんだった。
「………………。」
納得しているのか、していないのか。
悟はしばらく椿を見下ろして何も発さない。