【ヒロアカ】Until You Live【爆豪勝己】
第1章 .
爆豪はその視線に気付いていた。横を向いて距離の近さに、改めてたじろぐ。
「何見てんだ」
声に棘がない。掠れた低音が、暗がりの中で妙に近く響いた。
テレビの画面が二人の横顔を交互に照らす。赤と山吹が見つめ合うその距離は、手を伸ばせば触れられるどころか、呼吸が混じるほどに近かった。袖を掴んでいた爆豪の指が、いつの間にか手首の方へ、滑るように移動していく。
「ん……、綺麗だなって思って」
自然に零れ落ちた言葉だった。透は自分の発言に驚いて、じんわりと頬を熱くする。
爆豪の思考が停止する。口が半開きになりかけて、慌てて引き結ぶ。頬に熱が集まっていくのが自分でも分かった。
「は……っ、な、何言って……!」
言葉が続かなかった。母親似だから『綺麗』とか『顔整い』と言われた経験がないわけじゃない。だが今、この状況で、この距離で、こいつの口から出たその二文字は、どんな爆弾の直撃よりも破壊力があった。
手首を掴んだままの手が、微かに震えている。怒りなんかじゃない。
完全な沈黙が落ちた。テレビから流れる洋画の台詞が、遠い世界の出来事のように聞こえる。爆豪の耳は根元まで真っ赤に染まり、三白眼が激しく泳いでいた。暴言も虚勢も出てこない。今この瞬間、爆豪は完全に無防備だった。
赤い顔の二人。気まずい沈黙が横たわるが、繋ぎ止めた手と手は離れずに、どちらからともなく、指がそろりと絡み合う。
指が絡んだ瞬間、爆豪は小さく息を呑んだ。自分から動いたのか、それとも相手からだったのか。……もう、どっちでもよかった。