【ヒロアカ】Until You Live【爆豪勝己】
第1章 .
寒さを感じたのか、透の手が少し震え、足先がキュッと丸くなる。
震える指先が視界に入った瞬間、爆豪は反射的に手を伸ばしかけた。途中でハッと止めて、代わりに自分の上着を脱ぐと、透の膝の上に放り投げた。乱暴な動作だったが、彼女の身体には決して触れなかった。
「寒ぃなら上着くらい着て来い、アホが」
そっぽを向いたまま、腕を組む。冷たい夜気が上半身に触れるが、気にした素振りも見せない。
テレビではカーチェイスが終わり、静かなシーンに切り替わっていた。エンジン音の代わりに、暖房の微かな駆動音と、二人の呼吸だけが共有スペースを満たしていく。爆豪が投げた上着からは、ニトロの甘い、彼特有の体温の残り香がした。
「爆豪くん、寒くなっちゃう」
透はソファの上の空いた距離を詰め、上着を一緒に自分と爆豪の肩にかけた。
肩に触れた上着の重みと、その下にある透の体温。近い。近すぎる。心臓がうるさい。こんな音、聞こえたら終わりだ。
「……っ、別に寒くねえっつってんだろ」
それでも、振り払えなかった。身体が動かないんじゃない、動きたくなかった。自分でも信じられないくらい、この距離が心地よかった。
上着は二人の肩を覆うには少し足りなくて、自然と肩と肩の距離が縮まる。テレビの画面が暗いシーンに変わり、青白い光が途切れた。共有スペースは深い薄闇に沈み、暖色の間接照明だけが二人を柔らかく照らしている。時計の針は深夜一時を回ろうとしていた。
「爆豪くん、あったかいね。寒いの苦手だから、助かる」
嬉しそうに笑う。
『あったかい』の一言が、思った以上に深く胸に刺さった。顔が熱いのは白熱電球の間接照明のせいだと、自分に必死に言い聞かせる。
「俺は暖房器具じゃねえんだよ……」
文句を言いながらも、組んでいた腕はいつの間にか解けていた。右手が所在なさげに肘掛けを掴んでいる。
透の笑い声がすぐ隣で響く。その音が鼓膜を震わせるたび、爆豪の中で何かが確実に壊れていった。認めたくなかったものが、じわりと輪郭を持ち始めている。こいつが笑ってると安心する。こいつの震えが止まると、息ができる。それが何を意味するか、爆豪の頭はとっくに答えを出していた。