【ヒロアカ】Until You Live【爆豪勝己】
第1章 .
数分遅れて、カップを持った透は、爆豪の隣に腰を下ろした。人ひとりかふたり分くらいの間隔。湯気の立つ紅茶と、すっかり冷めたコーヒー。深夜の共有スペースは間接照明だけで薄暗く、互いの表情がぼんやりとしか見えない距離感だった。
ちらりと横を見て、すぐに視線を戻す。パジャマの襟元から覗く鎖骨の白さに、思考が一瞬真っ白になった。カップを握る手が強張る。
透がテレビをつけて洋画を再生した。深夜なので音量は雑音程度。暗い共有スペースに、画面の光がチカチカと二人の顔を青白く照らす。
隣に腰掛け、紅茶を一口飲んだ透が言った。
「爆豪くん、コーヒー飲めるの、大人だねえ」
爆豪は鼻で笑った。
「ガキかテメェは。コーヒーくらい誰でも飲むだろうが」
冷めたカップを一口啜る。不味い。さっき自分が力任せに淹れたせいだと分かっていたが、決して顔には出さなかった。
画面の中ではカーチェイスが始まっていたが、二人の会話とは何の関係もなく流れていく。洋画の字幕が明滅するたびに、ソファに並ぶ二人の影が、壁に向かって伸びたり縮んだりした。
「私も早く大人になりたいなあ」
透はぽそりと呟いて、ソファの上で膝を抱えた。
「早く大人になって、強くなって、一人でも生きていけるように」
その言葉に、コーヒーカップを持つ手がピタリと止まった。
画面の光が揺れる中、横目で透を見やる。膝を抱えるその姿が、やけに小さく見えた。
「……一人で生きていくとか、くだらねえこと言ってんじゃねえよ」
声のトーンが少し落ちていた。いつもの暴言とは違う、何かを噛み締めるような響き。
「ヒーロー目指してんなら、一人で強くなるとか甘えだ」
爆豪自身、なぜそんなことを言ったのか分かっていなかった。ただ、透の口から『一人』という言葉が出た瞬間、胸の奥がぎゅっと軋んだのだ。まるで、その言葉の裏にある彼女の寂しさを、ずっと前から知っていたかのように。
「……そうだね。皆んなで協力して、世界を、皆んなを助けないとね」
透は眉を下げて微笑んだ。