【ヒロアカ】Until You Live【爆豪勝己】
第1章 .
数日が過ぎた。授業、訓練、食事、風呂。どこにいても白い髪の残像がちらついた。紅茶の香りがふわりと廊下に漂うだけで、心臓が一拍跳ねる。
深夜の共有キッチン。誰もいない時間帯を狙って水を飲みに来たはずが、冷蔵庫の明かりに照らされた紅茶のティーバッグが目に入り、手が止まった。
「…………」
舌打ちして、棚からマグカップを取る。インスタントコーヒーの粉を入れようとして、隣に並んだ紅茶の缶が視界に入った。ラベルには丁寧な字で『水無月』と書いてある。
そっと缶を戻し、乱暴にコーヒーを淹れた。カップを掴む手に力が入りすぎて、取っ手がミリミリと軋んだ。
「あれ、爆豪くん」
キッチンにパジャマ姿で静かに現れたのは、透だった。
「まだ寝てないの、珍しいね」
そばにあった自分のマグカップを手に取る。
爆豪は振り返らなかった。振り返れなかった、が正しい。パジャマ姿の透を直視したら、今の自分の顔の赤さが一発でバレる。
「寝れねえだけだ。いちいち話しかけてくんな、うぜぇ」
カップを口元に持っていくが、中身は冷め始めていた。
深夜のキッチンは静かで、時計の秒針の音だけがやけに響いていた。冷蔵庫の低い唸りと、二人の間に漂う沈黙。透が自分のマグカップを手にしたということは、おそらく紅茶を淹れに来たのだろう。紅茶の茶葉が置いてある棚は、ちょうど爆豪の真横だった。
「わたしも」
透はクスクスと微笑む。
「じゃー、寝れるまで一緒にお喋りしようよ」
そう言って、共有スペースのソファを指差した。
カップを置いたまま、数秒の沈黙。断る言葉が喉まで出かかったが、どうしても飲み込まれた。
「勝手にしろ」
ソファに移動して、どさっと端に座る。隣を空けているつもりはなかったが、かと言って真ん中に座れるほどの度胸もなかった。