【ヒロアカ】Until You Live【爆豪勝己】
第2章 【一巡目】
午後十一時半。寮内は完全に静まり返っていた。
消灯時間はとうに過ぎ、廊下の照明は必要最低限の薄暗さまで落とされている。どこかの階から微かにクラスメイトのいびきが聞こえるだけだ。
爆豪は自室のベッドに腰掛けていた。眠れるわけがなかった。「零時ピッタリに」と言った、あの少し間延びした透の声が、頭の中で何度も何度もリフレインしている。
スマホの画面が暗い部屋を白く照らし出す。時刻は、二十三時四十八分。あと十二分。
心拍数が跳ね上がっていくのが自分でもよく分かった。たかが誕生日の祝いごときで、クソ馬鹿馬鹿しい。そう頭で切り捨てようとすればするほど、胸の鼓動は激しく速くなっていく。
二十三時五十八分。
透は手作りのホールケーキを両手で大切に抱え、爆豪の部屋の扉の前に立っていた。その顔にはニコニコとした笑みが浮かんでいる。パジャマのポケットには、綺麗にラッピングされたプレゼントが収まっていた。
あと、二分。
そして、午前零時キッカリ。静まり返った廊下に、小気味よいノックの音が響いた。
その音が部屋に響いた瞬間、爆豪はベッドから弾かれたように立ち上がった。一歩で扉へ近づき、勢いよく開け放つ。
そこには、やはりケーキを大事そうに抱えた透が立っていた。暗がりの中で、彼女の白い髪がぼんやりと優しく浮かび上がっている。
爆豪はまずそのケーキを見下ろし、それから正面の透の顔を凝視した。
「お前……それ、どこから持ってきた」
深夜零時にホールケーキなど、この寮の食堂は当然閉まっている時間帯だ。手に入るはずがない。
「実はね、手作りなの。初めてケーキ作ったから、美味しいかどうか分からないけど……」
透は少し照れたように視線を泳がせたあと、改めて真っ直ぐに爆豪を見つめた。
「お誕生日、おめでとう。爆豪くん」