【ヒロアカ】Until You Live【爆豪勝己】
第2章 【一巡目】
「ば、爆豪くん! 危ない危ない!」
透が咄嗟に個性を発動させた。
空気中の水分が一瞬で集まり、爆豪の手首を包み込むように薄い水の膜を張る。火傷の初期冷却――彼女の反射的な判断だった。
水の冷たさにはっと我に返り、爆豪は慌てて火力を落とした。
己の手首を見下ろすと、じんわりと赤みが出始めていた皮膚が、心地よい水膜によって優しく冷やされていた。
「……」
切島はさすがにただならぬ空気を察したのか、上鳴の首根っこをガシッと掴み、引きずるようにして退散していく。
「いたたた、首! 首もげるって切島ァ!」
騒がしい二人の気配が消え、キッチンに再び静けさが戻ってきた。コンロの上では鍋がことことと弱火で温まっており、手首の水膜がゆっくりと体温で蒸発していく。
爆豪は、水が消えた自分の手首をしばらく無言で見つめていた。
「……悪ぃ」
「ううん、痕にならなくてよかった」
透は傷の具合を確かめるように、爆豪の手首にそっと自分の手を添えた。
触れられたところがむず痒い。細く柔らかな指が、赤みの残る熱い手首にそっと添えられている。振り払うべきだと思った。思ったのに、どうしても身体が動かなかった。
数秒の硬直。静寂の中、爆豪の喉仏が小さく上下する。
ようやく我に返った爆豪は、拒絶するのではなく自らそっと手首を引き、コンロへと向き直った。背を向けたまま、その声はひどく掠れていた。
「……もう治った」
治っているはずがなかった。まだ熱の名残が皮膚の下でじくじくと疼いていたが、それ以上に、自分の心臓の方がよほど熱く脈打っていた。
爆豪は鍋に向かって、再び黙々とヘラを動かし始める。心地よい沈黙の中、バニラエッセンスの甘く濃厚な香りが、白い湯気に混じってキッチンいっぱいに広がっていった。