【ヒロアカ】Until You Live【爆豪勝己】
第2章 【一巡目】
時計の針は、まもなく午前一時を指そうとしている。
前回のこの時間、爆豪は透に自主トレーニングの誘いを持ちかけた。その結果、一緒に帰ることになり、あの忌々しい交差点に差し掛かってしまった。だから、今回は――。
「おい」
低い声に、透が顔を上げた。
「お前、放課後暇な日あるか」
聞き方が不器用すぎて、誘っているのか詰問しているのか判別がつかないトーンだった。
「え? 基本的には暇だけど……。どうしたの?」
爆豪はマグカップの縁を親指でなぞりながら、慎重に言葉を選んだ。前回の自分なら「特訓するぞ」と勢いのままに宣言して有無を言わせなかったが、今回は違う。
「……個性の訓練、付き合え。お前の水、汎用性は悪くねえからな」
褒めているのか命令しているのか曖昧な言い回しだったが、要するに『一緒に帰る口実』を作ろうとしていた。トレーニング自体も本心ではあるが、何よりあの帰り道を避けるための方便だった。
透の返事を待つ間、心臓がやけにうるさく脈打つ。こんな些細な会話ひとつで動揺している自分に、激しい苛立ちを覚えた。
「私なんかでいいの? 役不足じゃない?」
透が不安げに驚いた顔を向けてくる。爆豪は即座に眉を顰めた。
「『私なんか』とか言ってんじゃねえ。俺が誘ってんだ、黙って受けろ」
言い方は粗暴だったが、その根底にあるのは、彼女の自己肯定感の低さを看過できないという焦燥感だった。以前の透も、同じように自分を下げる癖があった。それを知っているからこそ、つい語気が強くなってしまう。
爆豪は残りのコーヒーを一気に飲み干して立ち上がった。
「明日の放課後、グラウンドB。遅刻すんなよ」
了承の言葉など確認しなくても、あの反応で彼女なら必ず来ると分かっていた。だから爆豪は、返事も聞かずに背中を向けて歩き出した。