【ヒロアカ】Until You Live【爆豪勝己】
第2章 【一巡目】
爆豪の目に廊下の時計が留まった。日付は、四月七日。入学式当日。
つまり、あの凄惨な事故が起こる二週間以上前の時間だ。
入学したばかりで、まだ自分のクラスの教室にすら辿り着いていない透。まだ誰も、誰の名前も覚えていない状態。それがこの世界の、透の、『当然の状態』だった。
全身の血の気が引いていくのが分かった。自分は、入学直後に戻っている。あの日々が、紡いだあの時間が、全部なかったことになっている。
(巻き戻って……いや、違う。戻ったのは俺だけか……!?)
周囲の喧騒が遠のいていく。桜が舞う廊下で、目の前には何も知らない透が立っている。あの夜の共有スペースでのやり取りも、上着を貸したことも、並木道のコンビニの帰り道も、全部、消えた。
だが、爆豪の内にだけ残っているものがある。骨壷の冷たさも、雨の中で意識が途切れる瞬間の絶望も、鮮明に刻まれたあの記憶。あれは確かに、あったのだ。
耐え難い喪失感が胸を深く貫いた。覚えていないのが当然だと理解していても、感情が追いつかない。目の奥が熱くなるのを、奥歯を噛み締めて必死に堪えた。
「……爆豪だ。爆豪勝己。同じクラスだ、覚えとけ」
声は平静を装っていたが、わずかに掠れて震えていた。
透を見下ろす爆豪の拳は、白くなるほど強く握り締められている。時間が巻き戻ったのか、それともこれが走馬灯の延長なのか、そんな理屈はどうでもよかった。目の前で生きている、笑っている。今はそれだけで、十分だった。