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閉店屋の恋は進まない

第9章 作る人


「その方、性別は……」
「それが、男の人なんだよね」
「あー……」
「こういうのいっつも判断迷っちゃう。アドバイス自体はけっこう的確だった気がするし……」

 考えすぎかもしれない、ともやっぱり思ってしまう。面倒見が良い感じの若めのおじいさんで、親切そうには見えた。
 でも、これまで嫌な思いをした時だって、最初から怖い雰囲気で近づいてきた人なんていなかったのだ。

 少し考える空気の後、ノルバートが口を開いた。

「個人的な判断基準だけど」

「内容の良し悪しよりも……君に指摘するとき、少し楽しそうにしてたなら、気をつけたほうがいい、と思う」

 シシィはしばらく考えてから。

「それでいうと、たしかにその節、あったかも……」

「じゃあ、すぐに展示行くのまではやめておいて、今後学内展にその人がまたやってきた時に判断、はどう?」

「そだね。そうしよ」



 数日後。

 各専攻の授業が終わり、生徒達がわらわらと教室から出てくる時間帯。
 シシィはノルバートを見つけてすぐに、弾んだ足取りで駆け寄った。

「ねえねえ、展示から直したあの絵ね、今日講評に出したらよくなったねって先生達に褒めてもらえて!」

 ノルバートも目を細め、嬉しそうに笑ってくれた。

「ほんと? すごく頑張ってたもんね」

「色々アドバイスくれてありがと! やっぱりノルバート、たくさん作品みて目が肥えててすごいね。私ももっと勉強しなきゃなー」

 シシィがあらためて感謝を伝えると、ノルバートは思いの外落ち着いた声で少し謙遜し、続けて言った。

「役に立てたなら。……でも、君みたいにゼロから何か作れるほうが、ずっとすごいことだよ」

 え、褒めたつもりなのに褒め返された。

 咄嗟に受け身を取り損ねる。

「なっ……なに、てれちゃった?」

「ううん」

 彼は珍しくはっきりと首を振り、もう一度目を合わせてきた。

「本気で思って言ってる。受け取って」

「……またあ〜」

 その場ではなんとかふざけて誤魔化したものの。

 その日から何日か、なんだかとてもうれしい気持ちが続き、少しばかりふわふわしてしまった。


 ぐ、甘やかし計画どころじゃない、いっつも返り討ち……

 もう、そういうとこ!!
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