第1章 この気持ちを表す言葉を、私は持っていない
そうか、無意識に来てしまったのか。
さっきまであんなに大量の仲間がいたのに、友達とギリギリまで話し込んで居たからか、今はほとんど人がいない。
もちろん中では撤去作業とか、写真を取りに来てる人とかも見かけるけど。
さっきまで彼らがここに居たんだよな。
そう考えたら、なんだか泣きそうになってしまった。
幸い、まだ終電まで時間がある。
中に入ることは出来ないけど、ぐるっと一周してから帰るか、と今度はスマホをポケットに仕舞って歩き出す。
ライブ中は、彼らを近くに感じられたけど、外周となると、中々な大きさだ。
こんな大きな所でやってくれたんだって気持ちと、もっと大きな所でやって欲しい気持ちと、遠くに行かないで欲しい気持ちが同居している。
「いやぁ、厄介ですなぁ」
なんて、これまた独り言をポツリとしたら、思いの外誰も居なくて、寂しくなってしまった。今度こそ落とさないようにと、仕舞いこんだはずのスマホに、手を伸ばす。
そしたら、今度は手から滑り落ちて
「あっ!?!?」
まるで石蹴りかのように、地面を滑るそれは、道路の側溝に消えて行った。
う、嘘でしょ!?と、焦る私は駆け足で側溝の中を覗く。
昨日降っていた雨のお陰で、地面はドロドロ、スマホの光がみえるから、そこにあるのは確認できた。でも、すぐにスマホの光は消えるし、街灯はあるけど影になっているしで、半泣きである。
すぐに側溝の蓋を持ち上げて取り出そうとするけれど、泥でくっついてるのか全然動かない。会場の人に協力を頼む?それとも交番?誰か周りに居ないかな、と周りを見渡すも、生憎人影は見当たらない。
なんて馬鹿なんだ私は。
さっきまであんなに幸せな空間に居たのに、馬鹿すぎて、さっきとは違う涙が出て来そうになる。
どうにかこじ開けて、手を突っ込んで拾い上げたそれは、きちんと動くようではあった。
代わりに泥んこになったそれをなんとかすべく、手持ちのティッシュとハンカチで拭き取る。多少はマシになったが、ケースに傷はつくし、この日の為にと綺麗にしたネイルは欠けてしまった。服だって、概念だと用意した目一杯のお洒落なのに、所々汚れていて、ため息がひとつ。
「あぁ....もぅ....最悪...」