第1章 この気持ちを表す言葉を、私は持っていない
「そんな悲しいこと言わないで」
急に、知ってる声が横から聞こえて、動きが止まる。
涙目になった私が見つけたのは、さっきまで愛を叫んでいた相手で。
と、言うか、相手達で。
顔を覆うマスクや帽子、季節外れの長袖や上着で風貌を隠しているが、間違える訳が無い。
時間も呼吸も止まった気がして、訳が分からなくなる。
人間って、キャパオーバーすると止まるって本当みたいだ。
「....おい、勝手に何やってんだよ」
「いやぁ、だってさー!あれだけ最高だったのに、最悪なんて聞こえちゃったら~!」
「ほんっと、余計なコトしかしないよね、レイジって。まぁ今日はランマルも予定にないことばかりしてたけど」
「うるせぇな、お前だって珍しく間違えてたじゃねぇか」
「....仕方ないでしょ、それだけ良かったんだから」
「まぁまぁ、淑女の前で無粋な事は無しにしましょう。最も間違えていた貴方には、言われたくない言葉でしょうが」
「う・る・せ・ぇ!ライブは生きモンなんだよ!裏で号泣してたお貴族様には分からねぇかもしれねぇがな!」
「なんだと?」
「あぁ?」
「もおおお!ミューちゃんも突っかからないでーー!」
さっきまであんなに仲良しだったのにー!
と、叫ぶ彼らを目の前に、ポカーンと空いた口と目が塞がらないし、閉じてくれない。
は?え?嘘、え?ホンモノ??モノホン????
さっきまで、あんなに沢山のファンを魅了していた彼らが、何の隔たりもない目の前にいる。
驚き過ぎて言葉を失っていたら、ふと、こちらを見る嶺二と目が合った。
思わず小さい悲鳴が零れると、あ、とこちらに駆け寄って服に付いた泥を払ってくれた。
「....っ!だ、だめっ!よ、汚れちゃう...!!!」
「いやいや、こんな可愛い格好の方が、汚れちゃうのダメだよ」
「今日の為に、お洒落してくれたんでしょ?レイジのシャツなんてボロボロなんだから、気にしなくて良いよ」
「これはヴィンテージって言うんだよアイアイ?」
夢でも見ているんだろうか。
頬をつねってしまいたいが、手が震えて止まらない。