第49章 【第四十四話】泣き声の方へ
――その呼び方。
胃の底が、冷えた。
忘れるな、と言われている気がした。
お前は当事者ではない。
誰が泣こうが、誰が死のうが、そのすべてを記録して次へ残す側の人間なのだと。
――分かってる。
分かっているはずなのに。
リナリーの腕を掴むその手を見ているだけで、腹の底が煮えるように熱くなった。
それでも、ラビは手を離さなかった。
「長官!」
強い声とともに、婦長が前へ出る。
彼女はリナリーを背後へ庇うように立ち、ルベリエを真っ直ぐ睨んだ。
「室長は避難を命じているのです。我々団員は、室長に従いますわ」
迷いのない声だった。
ルベリエは視線すら動かさない。
「この黒の教団は、教皇の軍です」
淡々と告げる。
「エクソシストは、教皇のものなのです」
もの。
――また、その言い方か。
ラビの奥歯が、ぎり、と鳴った。
婦長の顔色が変わる。
「この子達を……物のように扱うのは、やめてください!!」
息を切らしながら、それでも声を張り上げる。
「出ていって……! どうか、この部屋から出ていってください!!」
けれど、ルベリエの声は少しも変わらなかった。
「おいで、リナリー。キミの進化したイノセンスなら、レベル4に立ち向かえるかもしれない」
そして、言い放つ。
「エクソシストが守られてどうする」
その一言が、真っ直ぐ突き刺さった。
「おい……!!」
自分の声が跳ねる。
「教団の為に戦いたまえ、リナリー」
「やめろよッ!!」
気付けば、叫んでいた。
みっともないくらい、大きな声だった。
だが、ルベリエは眉一つ動かさず、ラビを見ようともしない。
その目が捉えているのは、最初から一人だけだ。
「キミはエクソシストだろう!!!」
リナリーの肩が、小さく震えた。
病室へ沈黙が落ちる。
やがて、リナリーは婦長から借りた靴を脱ぎ、ゆっくりと一歩前へ出た。
「リナリー!?」
ラビが目を見開き、婦長も息を呑んだ。