第49章 【第四十四話】泣き声の方へ
手すりが轟音とともに吹き飛んだ。昇降機は火花と瓦礫を撒き散らしながら、そのまま下層へ落ちていく。
「な……」
ラビの目が大きく見開かれた。
落下する昇降機の上に、一瞬だけ人影が見えた。
コムイ。
神田。
ファインダー達。
そして、銀髪。
――ティファ。
リナリーの顔色が変わる。
「兄さん!!」
悲鳴のような声だった。
――ガァァァン!!
昇降機が下層へ激突し、吹き抜け全体を揺らす凄まじい衝撃音が響いた。
巻き上がった砂煙が、底を覆い隠していく。
リナリーは青ざめた顔で、何も見えなくなった下層を見つめていた。その拳は、痛いほど固く握り締められていた。
「……兄さん……」
ほとんど音にならない声だった。
ラビはその横顔を見たあと、奥歯を噛み締めた。
ティファがいた。
血塗れのまま、あの足場の上に。
「……オレが、コムイ達の様子見てくる」
吐き捨てるように言うと、リナリーがはっと顔を上げる。
「ラビ……!」
ラビは振り返らず、片手だけを挙げて応えた。
吹き抜けの縁へ駆け寄る。
頭の中は、ぐちゃぐちゃだった。
理屈なんざ、どうでもよかった。
ティファが、あの瓦礫の底にいる。
それだけで、もう駄目だった。
――あいつを失いたくない。
あの字が、頭の隅に残っている。
――ラビも怖くなったら、私を呼んで。
呼びたい相手は、あの底にいる。
――無茶すんなって言った口で、これか。
「……自分が言えた義理じゃねぇな」
小さく舌打ちし、手すりへ手を掛ける。
「無事でいろよ……ッ」
そう吐き出すと、ラビは吹き抜けへ身を躍らせた。
背後で、リナリーが息を呑む。
身体が落ちていく。
赤い非常灯が細い光の筋となり、頭上へ逃げていった。
壁際へ突き出した鉄骨を蹴り継ぎ、必死に落下の勢いを殺す。
それでも、ほとんど飛び降りるに等しかった。
迷いは、もう振り切っていた。