第48章 【第四十三話】崩れゆくホーム
――ティファは。
気付けば、そう考えていた。
あいつのそれは、身体の中にある。
嫌いになっても。
苦しくても。
置いていくことも、外すこともできない。
――あいつは、あれと一生一緒に生きるしかない。
その事実に、今更のように背筋が冷えた。
「……ちくしょう」
呟いた声は、誰にも届かなかった。
燭台の小さな炎が揺れ、壁へ長い影を投げている。医療班の誰かが、床へ散らばった照明の破片を片付ける音がした。
薬品の匂いが、暗がりへ濃く漂っている。
リナリーは、扉の傍へ座り込んだまま動かない。
ラビも、その隣で動けずにいた。
冷たい床。
背中に当たる、分厚い鉄。
この向こうで、本部が壊れていく。
――ジジッ。
ノイズ混じりの館内放送が、切れ切れに鳴った。
『……第五研究室、壊滅……』
壊滅。
その二文字が、うまく頭に入ってこなかった。
『アクマ一体が研究室外へ侵攻! 対象は、レベル4へ進化した模様!』
「なに……っ」
レベル4。
聞いたことのない等級だった。
『第五研究室で応戦していたエクソシスト二名の安否は、現在確認できません!』
『繰り返す――アクマ・レベル4が、科学班フロアへ侵攻中!』
そこで、音が途切れた。続きは、聞こえなかった。
――じじい。
――アレン。
二人の姿が、脳裏を掠める。
隣では、リナリーが両手で口元を覆っていた。
燭台の炎だけが、変わらず揺れている。
科学班フロア。
婦長が、あいつの走って行った方だと言った場所。
血に濡れた銀髪が、目の裏に浮かびかけた。
ラビは奥歯を噛み、それを振り払った。
――まだ、何も決まってねぇ。
――何も。
皮の裂けた拳を、固く握り込んだ。
その時。
――コツ。
扉の向こうで、硬い靴音が響いた。
ラビの目が、鋭くなる。
一つ。
二つ。
こちらへ、真っ直ぐ近付いてくる。
慌てた足音じゃない。
避難している人間の歩き方でもない。
――ガチャ。
鍵の外れる音がした。