第48章 【第四十三話】崩れゆくホーム
アレンが何か返そうと口を開いた。
その時だった。
アレンの左目が、音もなく変わった。
黒い環が浮かび、歯車めいた照準が激しく回る。
「アクマだ!!」
誰かの落としたフォークが、皿の上で乾いた音を立てた。
食堂が、一瞬で凍りつく。
「生成工場――プラント……! リーバーさん達のいる第五研究室から、すごい数の反応がある!!」
プラントの『卵』を調べるため、リーバーやジョニー、タップを含め、科学班のほとんどが朝からそこに詰めている。
アレンが椅子を蹴るように立ち上がり、食堂の出口へ駆け出した。
考えるより先に、ラビも立ち上がっていた。
ブックマンとリンクも続き、四人は第五研究室へ向かって走り出した。
研究室へ駆けつけると、入口は見たこともない黒い壁に塞がれていた。
壁は天井から床まで続き、通れる隙間ひとつ残していない。見慣れた研究室の扉は、その向こうに完全に隠されていた。
「なんだ、この黒いカベは!?」
リンクが声を上げた。
「このっ……!」
ラビは傍らにあった『立入禁止』の看板を引っ掴み、黒い壁へ叩きつけた。
――ガンッ!!
腕に強い反動が返り、看板ごと弾かれる。
「……っ、ビクともしねェ」
「どいて、ラビ!」
アレンの左腕が、白銀の大爪へ変わる。
「破滅ノ爪――エッジエンド!!」
振り抜かれた爪が、黒い壁へ叩き込まれた。
その横から、ブックマンの天針――ヘブンコンパスが同じ一点を穿った。
――ドォォン!!
二重の衝撃に、廊下全体が揺れた。
「どうだっ……!」
砂埃の向こう。
壁は、変わらずそこにあった。
「ダメだ……キズひとつ、ついてねェ……っ」
そして――静かだった。
これだけの人数がいるはずの研究室から、物音ひとつ漏れてこない。
悲鳴も、何かが倒れる音さえも。
ついさっきまで人が働いていた場所とは思えなかった。
リンクが黒い壁へ耳を押し当てた。
数秒、息を殺して耳を澄ませる。
「中の音が、まったく聞こえない」