第47章 【第四十二話】『私』として、ここに
ラビは、膝の上のメモ帳へ顎をしゃくった。
「ずっと書こうとして、やっぱやめてるやつ」
指先が止まる。
『気づいていたの?』
ラビは、少し困ったように笑った。
「毎日ここに来てんだ。そんくらい気づくさ」
しばらく迷ってから、ペンを動かした。
『ファインダーの皆に、謝りたい』
ラビは何も言わなかった。
続きを書く。
『あの時、私の歌を怖いと思わせてしまった』
『助けたかったのに、皆の心へ勝手に触れた』
『ちゃんと、謝らないといけないと思う』
書き終えた文字を見つめ、唇を結ぶ。
本当は、何度も書きかけていた。
その度に消した。
謝りたいのか。
それとも、謝ることで自分が楽になりたいのか。
自分でも分からなかったから。
けれど、あの廊下で見た顔は、今も忘れられない。
恐怖が消え、安心だけを与えられた人たちの顔。
それを救いだとは、どうしても思えなかった。
ラビはしばらく黙ったあと、椅子から立ち上がった。
ベッドの傍へ来ると、私の頭へ手を置く。
「……分かった」
顔を上げる。
「医療班が外出許可出したら、一緒に行くさ」
目を瞬いた。
『一緒に?』
「一緒に」
迷いのない声だった。
「お前一人で行かせたら、何もかも自分が悪ぃみてぇに、いつまでも頭下げてるだろ」
ラビは眉を下げ、続く声を少しだけ強くした。
「それじゃ駄目だからな。怖かった奴がいることも、お前が苦しかったことも、どっちも無かったことにはさせねぇ」
その言葉が、身体の深いところへ落ちていく。
皆を怖がらせてしまったことには、きちんと向き合わなければならない。
私もまた、あの力に苦しめられていた。
何もかもを自分一人の責任として、抱え込まなくてもいいのかもしれない。
迷った末に、書いた。
『ありがとう』
ラビは鼻を鳴らす。
「礼は終わってからでいいさ」
私は目を伏せて笑った。
それを見て、ラビの表情が緩む。
やがて、悪戯っぽく目を細めた。
「あ、でも謝り終わったら、ご褒美くれよな」
『私が?』