第47章 【第四十二話】『私』として、ここに
ブックマンは、一度も病室へ来なかった。
その一方で、ラビは。
毎日、来た。
自分も療養中のはずなのに、医療班の目を盗んでは病室へ顔を出す。
三日目からは、誰も止めなくなった。
諦めたのか、呆れたのか。
どちらにしても、彼は毎日、同じ椅子へ腰を下ろした。
ラビの包帯は、少しずつ減っていった。
私が数えていることに、彼は気づいていない。
「クロス元帥の世話係が、また土下座してたさー」
メモ帳へ目を落とし、ペンを走らせる。
『何があったの』
「ロマネ・コンティ買ってこいって言われたんだと。自腹で」
メモ帳を膝に置いたまま、声を出さずに笑った。
ラビはそれを見て、満足そうに目を細めた。
「ん。その顔見れたから、今日も一日頑張れそうさ」
不意にそんなことを言われ、頬が熱くなった。
『大袈裟ね』
「そーでもねぇよ」
ラビは、何でもないことのように笑った。
「オレにとっちゃ、そんくらい嬉しいってこと」
思わず顔を背けた。
それを見逃すラビではなかった。
「あれ。顔、赤くね?」
『気のせいよ』
「もしかして、照れてんの?」
楽しそうに覗き込んでくるラビの額を、指先で小突いた。
そんなやり取りが、少しずつ戻ってきた。
ラビのイノセンスは、まだ修復されていない。
神田の六幻やリナリーのダークブーツも同じだった。
方舟やプラントの解明に人手を取られ、破損したイノセンスの修復まで手が回らないらしい。
方舟から生還したとはいえ、黒の教団の戦力は大きく損なわれたままだった。
誰もが、その事実を知っている。
だからこそ、笑える時には、皆どこか必死に笑っていた。
失いかけた日常を、指先で確かめるように。
その日の夕方。
病室の窓から、淡い西日が差し込んでいた。
私はベッドの上で、膝に置いたメモ帳を見つめていた。
ラビは椅子へ逆向きに腰掛け、背もたれへ腕を預けながら、こちらを見ている。
「……で?」
顔を上げた。
「そろそろ、教えてくれる気になった?」
何のことか分からず、眉を寄せた。