第47章 【第四十二話】『私』として、ここに
「……お帰りなさい、ティファ」
アレンは柔らかく微笑んだ。
「ちゃんと戻ってきてくれて……ありがとう」
言葉を返せず、目を伏せる。
壁際では、神田が腕を組んで立っていた。
相変わらず不機嫌そうな顔をしている。
ただ、いつもよりずっと近い場所にいた。
目が合うと、神田は眉間の皺を深くした。
「……目ぇ覚ますのが遅ぇんだよ」
ぶっきらぼうな言い方だった。
その声には、怒りだけではないものが混じっている。
肩の力が、わずかに抜けた。
ふと、アレンの背後に立つ見慣れない青年へ目が留まる。
整えられた金髪。
黒の中央庁制服。
物腰は穏やかだが、アレンの傍を離れる気配はない。
私の視線に気づいたのか、アレンの表情が曇った。
「……彼は、ハワード・リンク監査官です」
静かな声だった。
「方舟から戻って以降、僕の監査を……担当してるんだ」
監査。
その言葉の意味を、すぐには呑み込めなかった。
アレンが。
誰よりも人を救おうとしてきた彼が、監視されている。
何かを問おうと口を開きかけ、喉の痛みに眉を寄せた。
声にならなかった問いを察したのか、アレンは首を横へ振る。
「今は、休んで……ティファ」
青年――リンクは、丁寧に一礼した。
「お目覚めになったようで、何よりです。ですが、今は安静を最優先になさってください」
言葉こそ穏やかだったが、彼の制服が意味するものは、決して軽くないのだろう。
最後に、医療記録を抱えたコムイさんが入ってきた。
「ティファちゃん」
ベッドの足元で立ち止まった顔には、疲労が色濃く残っていた。
いつものような柔らかい笑顔はない。
「身体の傷については、医療班が処置してくれた。脇腹の損傷は深いけれど、危険な状態は脱しているよ」
ラビの肩が、わずかに下がった。
「喉の損傷も深刻だ。しばらく発声は禁止。無理をすれば、声が戻らない可能性もあるからね」
喉元へ手を添える。
怖くないわけではない。
歌えなくなるかもしれない。
声を失うかもしれない。