第46章 【第四十一話】特別という祈り
Side:ラビ
「ティファ!!」
ラビの叫びが、隔離処置室に響き渡った。
ティファの身体から、完全に力が抜ける。
ラビは咄嗟に抱き締め直した。
細い身体。
まだ温かい。
けれど、嫌になるほど軽かった。
「ラビ、離してっ!」
リナリーが、泣きそうな声で叫ぶ。
「早く止血しないと……っ!」
「ラビ!」
アレンが駆け寄り、ラビの肩へ手を掛けた。
「ティファは生きています。助けるために、医療班へ渡してください!」
ラビの腕が、一瞬だけ強張った。
さっきまで、自分の名を呼んでいた。
ちゃんと自分を見ていた。
聖女に呑み込まれず、ティファとして戻ってきた。
その温度を手放せば、本当にもう戻ってこない。
そんな恐怖が、指先を動かなくさせた。
けれど。
震える呼吸も。
脇腹から溢れ続ける血も。
抱き締めているだけでは、止められない。
「……絶対、助けろよっ」
ラビは歯を食いしばりながら、ゆっくりと腕を緩めた。
「こいつ……ちゃんと戻ってきたんだ……」
医療班員が強く頷く。
「必ず処置します。下がってください!」
ティファの身体が、ラビの腕から医療班の手へ移される。
ラビの腕の中が、空になった。
伸ばしかけた手を引き戻し、何も掴めない指を強く握り込む。
床には、血が広がっている。
ティファの血。
自分を傷つけてまで、ラビへ刃を向けることを拒んだ証。
「脇腹に深い刺創! 出血量が多い!」
「圧迫止血!」
「喉の損傷も再度悪化しています!」
「輸血と手術の準備を急げ!」
慌ただしい声が飛び交う。
医療班はティファの身体を支えたまま、傷口に厚い圧迫布を押し当てる。
その傍では、別の班員が担架を寄せ、輸血の準備を進めていた。
誰一人として、手を止めてはいない。
ラビは、その場から動けなかった。
肩にも腕にも、銀光で裂かれた傷が残っている。
血は流れているのに、それでも自分の怪我など存在しないかのように、ただ処置されるティファを見つめていた。