第46章 【第四十一話】特別という祈り
「ラビを……傷つけたく……なかった……」
「だからって、お前が死にかけてどうすんだよ……っ!」
怒鳴るような声なのに、最後の音が崩れた。
ラビは、堪えきれないようにティファを抱き締め直す。
傷口へ負担を掛けないように、必死に力を抑えている。
その不器用な腕の温度に、ティファの目から、また涙が落ちた。
「バカやろう……っ」
その時。
半透明の防護壁が、大きく揺らいだ。
「干渉出力、封鎖基準を下回りました!」
ジョニーの声が響く。
「今です、室長!」
コムイが術式盤へ手を叩きつける。
防護壁が光の粒となって消えた。
リナリーが真っ先に駆け寄る。
「ティファ……っ!」
涙で濡れた声。
アレンも、強く唇を噛みながら傍へ近づいた。
「ティファ、聞こえますか……?」
神田は数歩だけ近づき、そこで足を止めた。
何も言わない。
けれど、険しく握られていた拳が、僅かに緩んでいた。
ティファは、ラビの服を握り直そうとした。
けれど、指先に力が入らない。
視界が、急速に滲んでいく。
「……ティファ?」
ラビの声が揺れた。
「おい、ティファ。目ぇ閉じんな」
答えたい。
大丈夫だと。
自分は、まだここにいると。
聖女ではなく、ティファとして戻ってきたのだと。
けれど、身体が重い。
脇腹から流れ続ける血が、ラビの服まで赤く染めている。
「止血を!」
コムイの声が響いた。
「医療班、すぐ入って! 手術の準備を!」
「ティファ!」
リナリーの声が聞こえる。
アレンの足音も近い。
神田が何かを叫んだ気がした。
全てが遠い。
ティファは、ぼやける視界の中でラビだけを見た。
「……ちゃんと……いる、よ……」
掠れた声。
精一杯の言葉だった。
ラビの瞳が、大きく揺れる。
何かを言おうとして、唇が開いた。
けれど、ティファにはもう聞き取れなかった。
意識が、静かに沈んでいく。
最後に感じたのは、必死に自分を支えるラビの腕の温度だった。