第45章 【第四十話】この世界に縫い止めるもの
どくん。
『ニルヴァーナ』が、強く脈打つ。
その疑いごと、沈めてしまおうとするように。
「……ふざけんなよ」
ラビの声が、震えた。
「誰か一人を特別に思ったら、救えねぇって?」
ティファのすぐ傍へ立つ。
「怒ることも、怖がることも、好きな奴のために泣くこともできなくなって」
噛み締められた歯の隙間から、声が落ちる。
「それで皆に笑ってやるのが“聖女”だってんなら……そんなもん、救いでも何でもねぇだろ」
ルベリエの視線が、初めてティファから外れた。
寝台のすぐ傍。
ティファを庇うように立つ、その位置へ。
「……ブックマンの後継者が、よく言う」
その一言に、室内の空気が張り詰めた。
ラビの動きが、止まる。
リナリーの瞳が揺れ、アレンの表情が強張った。
「君の一族は、誰にも心を移さず、一人に固執することを己へ禁じてきた。……むしろ君こそ、この娘に“分かれ”と説くべき立場だろう」
沈黙。
ラビは、すぐには答えなかった。
ルベリエの言葉は、正しかった。
かつての“ラビ”なら、頷いていた。
「……ああ。昔のオレなら、そう言ったかもな」
低い声。
それでも、ラビは顔を上げた。
その目に、もう迷いはない。
「でも、もう決めたんさ」
ティファを見る。
「掟がどうとか、一族がどうとか、関係ねぇ。オレは、こいつの傍にいる。それだけだ」
「掟を捨てるか」
「捨てねぇよ。記録は、最後まで残す。……その上で、選んだんだよ。こいつを」
ラビは、まっすぐルベリエへ向き直った。
「こいつはまだ、“ティファ”でいようと抗ってる」
「オレは、それを忘れねぇ。誰か一人に特別に想われてんのが……こいつを、この世界に縫い止めることだってあんだよ」
ティファの喉元で、銀の光が、僅かに揺らいだ。
「ラビ……」
ティファの唇から、掠れた声が漏れた。
どくん。
『ニルヴァーナ』が脈打つ。
ラビの声に縋りたいと思った感情まで、遠ざかろうとする。
その時だった。