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【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第45章 【第四十話】この世界に縫い止めるもの



完成。


その言葉に、ティファは吐き気のような息苦しさを覚えた。



怒れなくなり。

恐怖を失い。

誰か一人を愛しく思うこともできなくなり。


誰に対しても穏やかに微笑み続ける存在へ変わることを。


完成と呼ぶのか。



「……母も……?」

気づけば、声が漏れていた。

喉へ痛みが走る。
それでも、問わずにはいられなかった。


「私の母も……同じ、だったの……?」


ルベリエは、淡々と答えた。

「君の母親にも、兆候はあった」



ティファの呼吸が止まる。


「彼女は高い適性を有していた。だが、完成する前に教団を去った」


「完成する……前に……?」



母は。

何から逃げたのか。



自分を失うことからか。

教団からか。


それとも、もっと別の何かからか。


「どうして……」

問いかけようとした声を、別の低い声が遮った。

「それ以上は、今ここで語ることではない」


開いた扉の脇に、ブックマンが立っていた。


いつからそこにいたのか分からない。
深い皺の刻まれた顔は、いつも以上に険しく見えた。


ラビの目が、僅かに揺れる。


「……じじい」


ブックマンは答えなかった。

ただ、ティファを見る。


その目には、普段の厳しさとは違う、深い苦みのような色が沈んでいた。


「お前の母親が何を選び、何を捨てたのか。今のお前へ断片だけを渡せば、それは刃になる」

ブックマンの視線が、一瞬だけティファの喉元の光へ落ちた。


「もう……十分、痛いわ……」

声が、震えた。


「私だけ……何も知らなかった……」



母のことも。
セトラのことも。

自分の歌の行き着く先も。

皆が何かを知っていたのに。


自分だけが、この力を救いなのだと信じて歩いていた。


怖い。


母の過去を知ることも。

知らないまま、自分が変わっていくことも。


自分自身を、信じられなくなることも。


どくん。

『ニルヴァーナ』が脈打った。


途端に、胸を裂いていた痛みが、また遠ざかる。



泣かなくていい。

過去など知らなくていい。

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