第45章 【第四十話】この世界に縫い止めるもの
無機質な金色の瞳が、封鎖結界を、計測器を、ティファの喉元で脈打つ光を順に捉える。
そして最後に、寝台の上のティファへ向けられた。
「……やはり、発現したか」
その声音には、驚きも動揺もなかった。
まるで、予測していた結果を確認しただけのような声。
コムイの表情が冷える。
「知っていたんですね」
「君も知っていただろう、室長」
「僕は、彼女を利用するために黙っていたわけではありません」
返された声は、鋭かった。
ルベリエは僅かに目を細めたものの、それ以上コムイへ構う様子はなかった。
「古くから、セトラの血を引く者は教団へ大きく貢献してきた」
淡々と、事実を並べるように言う。
「恐慌鎮静。精神維持。魂の慰撫。そして、戦場における希望の象徴」
ティファの指先が震える。
「極めて有用な存在だった」
有用。
まるで、人間ではなく機能を語るような言葉。
ラビの目が、鋭く細くなった。
「……テメェ」
低い声が漏れた。
けれど、ルベリエは構わず続ける。
「だが、均一化は本人を守るためだけのものではない」
ルベリエは、ティファの喉元を見ながら淡々と告げた。
「個の心が不安定になれば、セトラの血は本人よりも“救う役目”を残すことを優先する」
「役目を……残す……?」
「救済は、彼女たちにとって意思より深く刻まれた本能だ。個人的な恐怖も、怒りも、私情も、誰か一人への執着も、万人を救う妨げとなる」
ティファは、息を吸うことを忘れていた。
「ならば、それらを均せばいい。本人の心が失われても、救う力だけは残る」
「やめてください」
コムイの声が、低く響いた。
「それ以上、彼女を物のように語るな」
「事実を述べているだけだ」
「その事実を作ったのは、教団でしょう」
室内が静まり返る。
コムイの拳は、白くなるほど握り締められていた。
「救いを求められるたびに歌わせて。本人の感情が失われていくことを知りながら、それを“完成”と呼んだ」