第45章 【第四十話】この世界に縫い止めるもの
「……ごめんなさい」
声を出した瞬間、喉へ鋭い痛みが走った。
けれど、止められなかった。
「皆に……迷惑を、掛けたわね……」
「そんなの気にしなくていいよ!」
リナリーが、すぐに声を上げた。
一歩踏み出したが、ティファを刺激してしまうことを恐れるように、その場で足を止める。
「ティファのせいじゃない。今は、自分のことだけ考えて」
声が、僅かに震えた。
「……怖かったでしょう?」
その言葉に、ティファは目を伏せた。
怖かった。
歌が止まらなかったことが。
ファインダーたちの表情が変わっていったことが。
自分の声で、人の心へ触れてしまったことが。
ラビが駆け寄ってきた時、彼まで同じように変えてしまうのではないかと怯えたことが。
全部、覚えている。
胸の奥から、冷たい恐怖が這い上がる。
「……怖かっ……」
声にしようとした、その時だった。
どくん。
喉元で、『ニルヴァーナ』が脈打った。
途端に、胸を締めつけていた恐怖が、すっと薄れていく。
荒れていた水面を、柔らかな掌で静かに撫でられたみたいに。
怖がらなくていい。
苦しむ必要はない。
皆が落ち着けたのなら、それは悪いことではない。
自分には、誰かを救える力がある。
救えるのなら、怯える必要などない。
そんな思考が、あまりにも自然に胸へ馴染んでいく。
ティファは、ゆっくり顔を上げた。
「……でも」
掠れた声は、先ほどより不思議なほど落ち着いていた。
「皆、怖がっていたから……」
リナリーの表情が、僅かに強張る。
「少しでも……落ち着けたなら……それで……」
「ティファちゃん」
静かな声が落ちた。
コムイだった。
ティファが視線を向ける。
寝台の傍に立つコムイは、いつもの穏やかな笑みを浮かべていなかった。
眼鏡の奥の瞳が、ティファの喉元と計測器の波形を交互に見ている。
「今、君は本当にそう思っているのかい?」
「……え……?」