第44章 【第三十九話】優しい歌の檻
その日の夜。
面会時間も過ぎ、静養室は静まり返っていた。
窓の外では、遠くの灯りが淡く揺れている。
ティファはベッドへ背を預けたまま、ぼんやりと天井を見上げていた。
身体はまだ重い。
喉も痛む。
けれど、昼間よりは呼吸が楽だった。
昼間の笑い声が、まだ部屋のどこかに残っているような気がする。
ラビの軽口。
アレンの苦笑。
リナリーの優しい声。
皆がいる。
ちゃんと、生きている。
そう思うだけで、胸の奥が少し温かくなった。
その時だった。
コン、と小さく扉が鳴る。
ティファがゆっくりと視線を向ける。
返事のないまま数秒が過ぎ、やがて扉が静かに開いた。
入ってきたのは、神田だった。
ティファの目が、僅かに見開かれる。
神田は無言のまま部屋へ入り、後ろ手に扉を閉めた。
腕にはまだ包帯が巻かれている。顔色も、万全とは言い難い。
それでも、相変わらず不機嫌そうな顔をしていた。
数歩近づき、ベッドの脇で足を止める。
それから、手にしていたものをサイドテーブルへ置いた。
見覚えのある髪紐だった。
方舟へ向かう前、神田へ貸したままになっていたもの。
「……返す」
ティファの視線が、髪紐へ吸い寄せられる。
「借りたままだった」
それだけを言うと、神田の視線がティファの喉元へ落ちた。
白い包帯を見て、僅かに眉を寄せる。
「……まだ喋れねぇのか」
ティファは、小さく頷いた。
神田は短くため息をついた。
ティファは何か返そうとして、ベッド脇のメモ帳へ手を伸ばした。
だが、神田の声がそれを止める。
「いい」
ティファの指が止まった。
「返事はいらねぇ」