第44章 【第三十九話】優しい歌の檻
ありがとう。
心配を掛けてごめんなさい。
言いたいのに、今は書くことしかできない。
ペンを持とうとした、その時だった。
ガラッ、と勢いよく扉が開いた。
「はい! 面会時間終了よ!!」
現れたのは婦長だった。
腕を組み、完全に呆れた顔をしている。
「ティファはまだ病人です! 長時間の面会は禁止!」
アレンとリナリーが、同時に姿勢を正した。
「す、すみません……」
「もうそんな時間だったのね」
二人は素直に立ち上がる。
けれど。
ラビだけは微動だにしなかった。
「だってさ、お二人さん」
頬杖をついたまま、ひらひらと手を振る。
「お疲れー」
完全に、自分だけは残るつもりの顔だった。
ティファの目が少し丸くなる。
アレンが呆れたように溜息を吐き、リナリーは「ああ……」という顔で額を押さえた。
婦長のこめかみに、ぴくりと筋が浮かんだ。
「……ラビ」
「んー?」
「あなたもです!!」
「いっっったぁぁぁ!?」
次の瞬間、婦長の指がラビの耳を容赦なく引っ張り上げた。
「ちょっ、待って婦長! オレまだティファと話したいことが――」
「声の出ない患者相手に、あなた一人で何を話し続けるつもりなの!」
「オレが一方的に喋る!」
「なおさら帰りなさい!!」
「ティファー! 助け――」
耳を引っ張られたまま、ラビがずるずると廊下へ連行されていく。
バタン、と扉が閉まった。
数秒の沈黙。
そして、リナリーが堪えきれないように吹き出した。
「ふふっ……」
アレンも苦笑する。
「本当に懲りませんね、ラビは」
ティファも、小さく肩を震わせた。
声は出ない。
けれど、久しぶりに自然に笑えた気がした。
胸の奥に残る不安を、ほんの少しだけ忘れられるくらいに。