第43章 【第三十八話】呼べなかった名前
ティファは、ゆっくりと目を伏せた。
喉が痛い。
身体も痛い。
けれど、その痛みの奥で、胸を締めつけていたものが少しだけ緩んだ。
ラビは、生きている。
また会える。
その事実だけで、今は十分だった。
「はい、時間切れです」
婦長の容赦のない声が飛ぶ。
リナリーとミランダが同時に肩を跳ねさせた。
「えっ、もうですか?」
「五分と言いました」
「でも……」
「患者に休息を与えるのも、私の役目です」
ぴしゃりと言われ、リナリーは苦笑した。
「……はい」
それから、ティファへ視線を戻す。
「また来るね」
ミランダも涙を拭いながら、何度も頷いた。
「ちゃんと休んでね。私も、また来るわ……!」
二人が部屋を出ていく。
扉が、静かに閉まった。
再び、個室へ静寂が戻る。
婦長はカルテへ何かを書き込みながら、小さく呟いた。
「まったく……今年は無茶をする子ばかりね」
ぼやくような声。
けれど、その響きはどこか柔らかい。
ティファは、ぼんやりと天井を見上げた。
疲労が重い。
瞼も、すぐに落ちてきそうだった。
それでも。
ここへ戻ってこられたのだと、ようやく実感が湧いてくる。
皆がいる場所へ。
ラビがいる場所へ。
身体の芯に、微かな温かさが灯る。
けれど、その温もりに重なるように、不意に別の声が蘇った。
――教団は君を救わない。君の歌を求めるだけだ。
ヴェインの声。
ティファの指先が、シーツの上で僅かに強張った。
喉元の奥で、ニルヴァーナが微かに熱を帯びる。
どくん。
小さな脈動。
ティファは、ゆっくりと目を閉じた。
今は、考えられない。
考えたくない。
ただ、皆が生きていることだけを胸に抱くようにして、再び浅い眠りへ落ちていった。
*
それから数日。
ティファの容体は、少しずつ安定していった。
喉の痛みはまだ消えず、声も戻らない。
けれど、起き上がれる時間が僅かに増え、医療班の許可を得て、重症者用の個室から静養室へ移されることになった。