第43章 【第三十八話】呼べなかった名前
けれど。
一人の名前が、まだ出てこない。
ティファの指先が、シーツの上で微かに動いた。
リナリーは、その仕草に気づいたようだった。
少しだけ目を細める。
「……ラビも、生きてる」
その一言で、ティファの身体から力が抜けそうになった。
けれど、続く言葉に、再び息が止まる。
「ただ……ティファを医療班へ渡したあと、倒れたの」
ティファの瞳が、大きく揺れた。
「最後まで、あなたを抱えて離さなかった。タイムレコードが解けて、自分の傷が全部戻っても……ティファを担架へ移すまで、絶対に手を離さなかったの」
胸が、強く締めつけられる。
最後に見たラビの顔が、鮮明に蘇る。
近すぎるほど傍にあった、泣きそうに歪んだ顔。
――おせぇよ。
――どんだけ待たせんだよ、バカ。
ティファは、反射的に身体を起こそうとした。
「……っ!」
途端に、全身へ鋭い痛みが走る。
喉から声にならない息が漏れ、身体が震えた。
「ティファ!」
リナリーが慌てて肩へ手を添える。
「駄目、起きちゃ駄目!」
婦長も即座にベッド脇へ来た。
「何をしているの!」
叱りつける声と共に、身体を支え、ゆっくりと枕へ戻される。
ティファは苦しげに呼吸を乱した。
行きたい。
ラビのところへ。
今度は、自分が無事だと伝えたい。
ここにいると。
けれど、身体は指一本動かすことさえ拒むように重かった。
リナリーは、ティファの気持ちを察したように、そっと手へ触れた。
「大丈夫」
優しい声。
「ラビは今、アレンくんたちと同じ病室にいる。医療班がちゃんと見てくれてるから」
ティファの睫毛が震える。
「私が伝えるから」
リナリーは少しだけ笑った。
「ティファも無事だって。ちゃんと戻ってきたって」