第43章 【第三十八話】呼べなかった名前
喉へ負担が掛からないように。傷ついた身体を圧迫しないように。
自分の呼吸は乱れたままなのに、ティファの苦痛だけを少しでも減らそうとする。
「担架を!」
「ティファさんを早くこちらへ!」
「ラビ、あなたも重傷です! そのままでは――」
医療班が一斉に駆け寄ってくる。
ラビの腕が、一瞬だけ強張った。
けれど。
腕の中で、ティファの呼吸がまた浅く乱れる。
その音で、分かってしまった。
もう、自分の腕は揺れている。
この震える腕で抱え続けることは、守ることじゃない。
「……頼む」
短く言って、ラビは壊れ物を託すように、慎重にティファの身体を担架へ移した。
銀色の髪が、腕から離れていく。
細い指先が、支えを失うように滑り落ちそうになる。
ラビは咄嗟に、その手を一度だけ握った。
「……待ってろ」
小さな声。
「すぐ、行くから」
返事はない。
それでも、指先にはまだ温もりがあった。
「医療棟へ急げ!」
担架が持ち上げられる。
ティファが運ばれていく。
ラビは片膝をついたまま、その姿を追い続けた。
視界が揺れる。
身体はもう、まともに立てる状態ではない。
それでも。
銀色の髪が長い回廊の奥へ消えるまで、目を逸らさなかった。
やがて、ティファの姿が完全に見えなくなる。
その瞬間。
ラビの身体から、張り詰めていたものが切れた。
ぐらりと傾く。
「ラビ!」
ジョニーの叫びと、医療班の足音が重なる。
けれど、意識が沈む直前まで。
ラビの胸に残っていたのは、腕の中にあったティファの温もりだった。
――約束、守ったな。
声にはならなかった言葉だけが、静かに残っていた。