第43章 【第三十八話】呼べなかった名前
アジア支部での喧騒と再会の余韻を残したまま、一行は再び方舟へと戻る。
アレンが再びピアノを弾き、方舟を操った。
「方舟よゲートを開いてくれ。開くゲートの行き先は――」
ラビはソファで眠るティファを慎重に抱き上げた。
開かれたゲートの先に広がるのは――黒の教団本部だった。
その広間には、すでに人が溢れていた。
アジア支部から、先に報せが届いていたのだろう。
科学班。
医療班。
ファインダー。
誰もが息を詰めるようにして、こちらを見ている。
その中心に立っていたのは、コムイだった。
「……」
一瞬、言葉が出ない。
次の瞬間。
「兄さん!」
リナリーが駆け出す。
迷いなく飛び込み、そのままコムイへ抱きついた。
コムイの腕が、わずかに遅れて動く。
妹を抱き締める。
その周囲で、抑え込まれていた感情が一気に溢れ出した。
「おかえり!」
「ああ……よかった……!」
「生きて……戻って……」
あちこちで声が上がり、場の空気が崩れていく。
コムイの腕の中で目を閉じるリナリーを見て、ラビはようやく帰還を実感した。
帰ってきた。
本当に、皆で戻ってきたのだ。
その実感に、ようやく肩の力が抜けかける。
歓声の端で、神田が無言のまま、背に負っていたクロウリーを医療班へ引き渡した。担架を見送りもせず、壁際へ下がる。
ただ、その視線だけは、クロウリーが運ばれていく方向から暫く離れなかった。
クロウリーの担架を見送ったリナリーが、ふとミランダへ目を向けた。
ラビも、その視線を追う。
青白い顔。
震える指先。
タイムレコードを抱えたまま、立っているのがやっとの身体。
まだ、終わっていない。
ミランダが時間を止め続けている限り、この帰還は本物にならない。
そして、限界はとうに過ぎている。
リナリーは、ゆっくりと顔を上げた。
コムイの腕の中から、まっすぐミランダを見る。
「ミランダ……お願い」