• テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第43章 【第三十八話】呼べなかった名前



情と、記録者の務め。

そのどちらかを選べと迫られている気がして、身動きが取れなかった。


でも、もう違う。


方舟で、もう一人の自分と決着をつけた時に、決めたのだ。

どちらも、手放さないと。


覚えていることを選んだまま、記録者でいる。

想いを抱えたまま、事実は事実として差し出す。


だから今は、揺れない。


ティファが喉を焼いたことすら、まっすぐ記録に刻める。

目を逸らさず、受け止めた上で。



ブックマンは、しばらく何も言わなかった。


やがて、ぽつりと言った。


「……見事な記録だ」

ラビは、答えなかった。


その一言が、単なる称賛でないことは分かっていた。


情を捨てたから、揺れなくなったのではない。

情を抱えたまま、揺れないところまで来た。


少なくとも、この老人は。
その違いを、見落としてはいない。


だからこそ、「見事」と言ったのだ。


叱責ではなく。
かといって、ただの褒め言葉でもなく。




沈黙が落ちる。


報告は、終わった。

けれど、ラビの中には、まだ差し出していないものが一つ残っていた。


記録じゃない。

個人的な、問いだ。


「……なあ、じじい」

低く、切り出す。

「ヴェインって名前が出た時さ。あんた――」

「ユー君」

穏やかな声が、少し離れた場所から聞こえた。


ティエドール元帥だった。


「さっきから、そこばかり見ているな」

見れば、神田は白いソファの部屋へ続く通路の壁に凭れていた。


腕を組んで。
ただ、立っているだけ。

けれど、その位置からは、部屋の扉が見える。


「あの銀髪の子か。容態が気になるなら、傍についていてあげればいい」

「……うるせぇ」


神田は否定しなかった。

視線も、逸らさなかった。


「私はいいと思うぞ、ユウ。仲間を案じる心は――いや」

/ 1148ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp