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【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第43章 【第三十八話】呼べなかった名前



「成り行きだ」

クロスは煙を吐き、それきり興味を失ったように視線を外す。


「相変わらず、謎が多い男だな」

元帥は小さく笑って、それ以上は問わなかった。


積もる話は後――その言葉に、誰より多くの話が積もっているのはこの男だった。



ティエドール元帥を先頭に、江戸で戦っていた面々が次々と方舟へ乗り込んでくる。


賑やかさが、一段増した。




アレンとリナリー、そしてクロスがアジア支部へ降りていく。

その背を見送って、方舟の喧騒がわずかに引いた頃だった。


「ラビ」

低い声に振り返る。


ブックマンが、いつもの半眼でこちらを見ていた。


「方舟で何があった」

来た、とラビは思った。


記録者としての報告。


当然の要求だった。

むしろ、遅いくらいだ。


「……ああ」

ラビは、方舟で起きた全てを差し出した。


神田が、ティエドール元帥を狙っていたノアと相対したこと。
クロウリーが、単身でジャスデビというノアと相対したこと。

アレンが、ピアノで方舟を掌握し、崩壊を巻き戻したこと。


そして――湖畔で遭遇した、ヴェインという白い髪の男。


セトラの生き残りを名乗ったその男が、方舟でティファを名指しし、二人だけの戦いへ引きずり込んだこと。


ティファがそれを引き受け、皆を先へ逃がしたこと。
その代償に、喉を焼き、声を出せなくなったこと。


ノアは、一族の記録に幾度も刻まれてきた血族だ。

だが、セトラを名乗る男は――少なくとも、オレの知る記録にはいない。


だから、そこだけは細部まで差し出した。


淀みなく。
一つも逸らさず。


どの事実も、平坦に。


――昔なら、こうはいかなかった。


あの夜、「セトラの娘への情を捨てろ」と言われた時は、拳を握ることしかできなかった。

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