第43章 【第三十八話】呼べなかった名前
Side:ラビ
「本船の『江戸接続』を解除――」
アレンの指が鍵盤を撫でると、譜面が空間に広がった。
「方舟よ、ゲートを開いてくれ」
光が、弾ける。
ラビが真っ先に扉の方へ歩み出た。
「お〜い、みんな無事さ〜?」
その背後から、アレンとリナリーが続き、神田が面倒そうに降り立つ。
開いたゲートの先に――見慣れた顔が、並んでいた。
最初に動いたのは、ミランダだった。
「……え」
信じられないものを見るように目を見開く。
その隣でマリが息を呑み、ティエドール元帥が一歩前へ出る。ブックマンの瞳が、わずかに細まった。
「……生きてるっ」
ミランダの声が震える。
次の瞬間、涙が堰を切った。
「消えた時間が戻ってくるわ〜っ!」
駆け出す。
その騒ぎの中を通り抜け、ラビはブックマンに近寄った。
いつもの調子で笑う。
「あれぇ?じじい、泣いてるんさ?」
茶化すように言った、その直後。
鈍い音が響き、ブックマンの拳がラビの頭に落ちた。
「いてっ……!」
顔をしかめるラビに背を向けたまま、ブックマンは低く吐き捨てる。
「馬鹿者め!心配させよって……」
わずかな間を置き、
「……肝が冷えたわ」
背を向けたまま、その一言だけは、いつもより低かった。
ラビは一瞬きょとんとしたあと、小さく笑った。
「……わりぃ」
それ以上は何も言わないまま、その場の空気がゆるやかにほどけていった。
「積もる話は後だ。まずは全員、乗れ」
煙と共に降ってきた声に、江戸組の動きが一瞬止まる。
ティエドール元帥が、ゆっくりと目を見開く。
「……マリアン。戻る気になったのか」
四年。
教団に姿を見せず、音沙汰ひとつなかった男が、当然のような顔でそこに立っていた。