第6章 甘味昏々
「…これでいい?」
「え?」
の声はもう日下部さんを煽っていた時の勢いはなかった。
「甘井、アタシに高専にいてほしいんでしょ?」
「え?」
「ま、これでなんかしらの仕事はもらえるだろ。日下部の下っていうのは気に食わないけど」
「え、ちょっと待って!今までの狙ってやってたってこと!?」
え、どこから?
ここ来てから?
それとも部屋で二人で話してた時から?
「だから言ったじゃん?アタシの演技はアカデミー賞狙えるって」
嘘だろぉぉぉ、そこからかよぉぉぉ!
日下部さんのみならず、俺もの手のひらの上だったってこと?
日下部さんじゃないけど、本当に狐に化かされた気分…
マジかぁ…
脱力して膝から崩れ落ちそうになってる俺をよそに、は日下部さんの机の上にあった飴を勝手に包装紙を剥いて口に放り込んでる。
また、それバレたら怒られっからやめて。
「ほら、もう用事済んだよね?部屋に戻ろうよ」
そう言って来た時とは打って変わって機嫌良さそうに部屋を出て、廊下ではスキップして鼻歌まで歌ってる。
歌と踊りができるっていうのもあながち嘘でもないのかもしれない。
部屋に戻ると何だかドッと疲れてソファに座り込む。
「あー、本当、がマジで日下部さんに喧嘩売ってんだと思ってヒヤヒヤしたー」
「ま、言ったことは100パー本気だけどね」
が俺の隣に座る。
「もーさ、それ、日下部さんと働くようになったらやめろよー。こっちの気が保たない…」
「アタシ、変わる気ないからー」
「またそれだ」
でも、「変わる気ない」って言っといては少しずつ変わってきてる。
きっとこれからだって変わっていくんだ。
それをこれからも隣で見ていける。
これからも一緒にいられるんだ。
そう考えたら急に嬉しい気持ちが襲ってきた。
と、同時にが俺の腕に頭を預けてきた。
「ねぇ、これからもアタシと一緒にいれて嬉しい?」
本当、って人の心が読める術式でも持ってるんじゃないかっていうタイミングでこういうこと言うんだよな…
知ってるくせに言わせようとするし。
「…うん、まぁ…嬉しい、かな…」
照れくさくて「嬉しい!」なんて言えなくて、こんな言い方になったけど、は満足そうに笑った。