第5章 旨いバランス
は萎えたモノを口から出そうとはしなかった。
口の中で優しく、いや力なく舌で転がす。
肩が震えている。
「…」
名前を呼んでも俯いたまま。
「…もう…」
もう一度呼んでようやく口からは出したけど、それでも力なく横たわるモノを舐めていた。
グスッと鼻をすする音がした。
え…?
「!?」
驚いて少しだけ大きくなった声には顔を上げた。
大きな目に涙をいっぱい溜めて、それでも押されて行き場のなくなったものが大粒の塊になって頬を流れ落ちていく。
初めて見るの涙に言葉を失っていると、の口の中で「どうして…」と小さく音がなった。
「…」
未だにかける言葉が見つからなくて、ただ名前を呼ぶことでしか出来ない。
が泣きながらうわ言のように何かを呟いている。
「どうして…?私、上手にできてないの?…私、教えられたようにやってるよ?なのに…どうして…?」
俺を見つめる瞳は縋るようで、それは俺の知ってるじゃなかった。
の資料を思い出す時に走るゾクリとする悪寒と同じものが身体の中を流れる。
呆然とする俺から視線を外すと、はまた俺のモノに小さい舌を這わせる。
一生懸命、何度も、何度も。
「…やめろって…」
ダメだ……
そっちに行くな…
戻ってこい…
そんなこと…しなくていいんだ…
「!もうやめろってば!」
いつまでもやめないの肩を思わず掴んで離してしまった。
の身体がビクリと跳ねて、「やめろ!アタシに触るな!」と怯えたように暴れて俺の手を振り払う。
それでも何とか落ち着いてほしくて手を伸ばしても何度も何度も振り払われて、終いには腹を思いっきり蹴られた。
「ぐぅ…」
あまりの痛さに腹を抱えているうちには部屋を飛び出していった。
マズい。
今のは一人にしちゃダメだ。
追いかけなきゃ。
拒絶されても一緒にいなきゃ。
痛みに耐えながらズボンを上げて、俺も部屋を出る。
廊下にの姿はなくて、どっちに行ったかもわからない。
わからないけど、とりあえずを求めて走り始めた。