第1章 甘い受難
「じゃあさ、おにーさんの名前は?」
「え?」
無邪気な笑顔はそのままにナチュラルに訊いてくる。
「おにーさんの名前。“ボク”の名前も知ってるんだからいいじゃん」
雑談の延長みたいな軽いノリ。
でも、やっぱり講習の規則を破るのは気が引ける。
「いやー…」
「いいじゃん」
お茶を濁し続けてみたが、最後の一言は謎の圧力があって、ついには隣に座るのピアスの刺さった耳に向かって小さな蚊の鳴く声を出してしまった。
「…甘井」
「へー、甘井。まんまだね」
「何が『まんま』なんだよ」
「だって、甘井、甘い匂いがする」
そう言うと甘い物が大好きというは自分の唇を端から端までペロリと舐めた。
無意識なのか、それとも意識的なのかはわからないけど、その仕草は俺の知っている12、13歳の表情とは思えなかった。
「…!てか、甘井って呼び捨てかよ!年下なら『甘井さん』とか『甘井くん』だろー」
「じゃあ、甘井で」
「どんなノリだよ!」
自分の中の動揺を悟られないように言った訴えも、よくわからないノリで呼び捨てに固定された。
「ねぇ、“甘井”」
あれ?
の声色が変わった気がする。
「フルーツヨーグルト、“ちょうだい”」
あれれ?
身体が勝手に動く。
「ん、ほら」
さっきは断れたのに、今回は気付いたらフルーツヨーグルトをのトレーに乗せていた。
ビックリしての顔を見た。
は満足したように不敵な笑みを浮かべている。
「なんだ?今の…」
「甘井、優し」
そう言って美味しそうにフルーツヨーグルトを食べ始めた。
「“甘井”、下の名前は?“教えて”」
「凛」
「甘井凛?甘いプリンみたい。かわいい」
なんだ?
「“甘井”、うちの講習担当のあの術師の名前知ってる?“教えて”」
「日下部さん。下の名前は知らない」
「ふーん。日下部、ね」
どうして?