第1章 甘い受難
「おにーさんさ、甘い物が好きなの?フルーツヨーグルトにハチミツなんてかなり甘いよ?」
少年は俺のトレーを覗きながら言う。
「いや、これは、好きって言うより…何ていうか…」
術式に関わることだから説明しづらい。
どう説明しようか口籠っていると、
「“ボク”、それ、食べたいな。ちょうだい」
子どもらしいワガママを言ってくるけど、ここで糖分摂らなきゃ他に摂る時間がない。
「いや、これはちょっと。俺が食べなきゃいけないから」
ここは勇気を持って突っぱねた。
少年は「ふーん…ケチ」って口を尖らせた。
可愛い顔するな。
「ケチって…お前だって相当甘いだろ、それ」
少年のトレーに乗っているのはアイスとホイップクリームがたっぷり乗ったワッフルとマンゴーラッシー。
おおよそ昼飯には相応しくない。
「“ボク”さ、甘い物が大好きなんだよね」
そういえば五条さんも甘い物をいつも食べていたな。
この世の美形は甘い物を好むとっていう決まりでもあんのか?
そんなことを考えながら視線を少年に移すと不満そうな目で俺を見ていた。
「ねー、“ボク”、お前って呼ばれるの、ヤダなー」
「じゃあ何て呼べばいいんだよ。俺もお姉様方みたいに『ボク』って呼ふのかよ?」
「それもヤ。名前。“ボク”の名前、“”っていうんだ」
「なっ…!」
お子ちゃまは講習の始めに言われたことなんて頭にないらしい。
「お前、講習期間は名前教えるのはダメって言われてるだろ?」
「あ、そうだった!じゃあさ、“ボク”の名前はおにーさんだけのナイショね?」
悪びれもせず、まるで秘密を楽しむようには口の前で人差し指を立てて笑っている。
耳にも口にもピアスを開けて、一番近寄りたくない人種に見えるのにこういう仕草は反則だと思う。
道理でお姉様方を虜にするわけだ。
「……わかったよ…」
「じゃあ、“ボク”の名前、呼んでみて」
「え、それはー」
「おねがーい。1回だけでいいから!」
今度は顔を前で手を合わせて目をギュッとつぶって…だから、反則なんだって!
「1回だけだぞ?……“”」
呼べと言われて口にする名前は何故だか妙に照れくさかった。
は嬉しそうに笑っているのにその瞳は一瞬肉食動物のようで、それを「ありがと」と笑って隠したようにも見えた。