第5章 旨いバランス
俺はバッグにルーズリーフを大切に仕舞う。
「少し遅くなったから晩飯先に行く?」
いつもなら晩飯の前に部屋に戻ってキスブレイクを挟むけど、そうすると俺の方の事情でしばらく部屋から出れなくなる。
「んーん。先に部屋帰る」
あー、今日の晩飯はかなり遅くなりそうだ。
そんなこと考えながら部屋について、ソファに向かおうと思ったら後ろから服の裾を引かれた。
振り向けばが立ち止まって動く気配がない。
「どうした?」
そう訊いたら返事の代わりにが距離を詰めて俺の胸にそっと頭を寄せてきた。
服の裾はしっかり握っている。
え…何?
どうした?
さっきまで普通に話してたよな?
俺が軽く混乱してフリーズしていると、今度は寄せた頭をグリグリと擦りつけてくる。
普段、じゃれついてくる時もあるっちゃあるが、こんな真正面から来ることはまずない。
あ…
もしかして…
俺が日下部さんに連れて行かれたの、実は結構心配してた、のかな…
いや、俺もあの状況でだけ連れて行かれたらそうなる。
もう帰ってこないんじゃないかって。
俺でもそう思うんだ。
頭の回転が早いが思わないワケない。
もしかしたら、課題がどうのこうのっていうのも嘘だって勘付いてるかもしれない。
なら術式を使えばいくらでも本当のことを聞き出せる。
なのに、それをしない。
俺や日下部さんを信じようとしてくれてるのかもしれない。
でも、それってからしたらすごく不安なことだよな。
どうしよう…今、すごく抱きしめてやりたい…
でも、それがにとって救いにならないってことはさっき痛いほど理解してきたばかりだ。
じゃあ、俺はに何をしてやれるんだろう。
不安に耐えようと頑張って、それでも少しだけ俺にサインを出してくれてるっていうのに…
「頭撫でて」
が小さく呟いた。
「…え?」
聞こえなかったワケじゃない。
もう一回聞きたかったワケでもない。
ただ、理解が追いつかなかった。
触ってもいいの?
「頭、撫でて」
もう一度、今度ははっきり言われた。
俯いてるから表情は見えない。
急に出されたお触り許可(ただし頭に限る)に俺は戸惑いが隠せないが、要望通りそっとぎこちなくの頭に手をかけた。