第5章 旨いバランス
「報告書は回収な」
日下部さんはの報告書をヒョイッと取り上げた。
「日下部さん、それってやっぱり残るんですか?」
のあんな過去が高専の誰もが見れるような状態にされるのは嫌だ。
「ん?あぁ、これ?今んとこ俺個人の依頼調査ってことで俺のところで止めとく。が、今後のアイツの身の振り方次第では上に報告しなきゃなんねぇ。一応、呪詛師に転じる可能性も考えとかなきゃなんねーんだわ」
確かに、の術式はどっちかっていうと呪詛師向きだと思う。
けど。
「…そんなことにはさせません」
「あぁ、そうしてくれ」
日下部さんはポンッと俺の頭を報告書で叩くと部屋を出ていった。
少しだけ微笑んでいたように見えた。
日下部さんが出ていった後、静かになった部屋の中で俺はさっき見た報告書の内容を思い出していた。
…ごめん。
俺、全然のことわかってなかった。
はただ性に奔放で、経験豊富で、俺のこと面白可笑しく手玉に取ってるんだと思ってた。
でも、違うんだよな。
それの一つひとつがの傷なんだよな。
傷だらけなのにまるでそんなこと何ともないように振る舞って。
弱ってるところなんて見せたら殺られるような野生動物みたいに生きてきたんだよな。
ごめん…。
俺はスマホを取り出して、と出会った日に撮られた動画を開いた。
動画の中で声を上げてるのはきっとあの頃ので、この時だって本当に怖がってたんだと思う。
そうまでして俺を脅す材料が必要だったのか?
週一回のセックスだってそうだ。
はいつだって俺の首に顔を埋めて、顔は絶対見せてくれない。
最中だって荒い息が聞こえるだけで、甘い声なんて一度だって聞いたことはなかった。
は「釣った魚に餌やる」って言ってたけど、そういう繋ぎ止め方しか知らなかったんじゃないのか?
、俺、そんなことしなくたってお前と一緒にいるよ。
そんなことしなくたっては生きていけるし、お前の良い所、きっともっとたくさんあるはずだ。
どうやったらに伝わるんだろう。
言葉ではきっとダメなんだ。
これから俺は行動で伝えなきゃ。
俺はスマホを握りしめた手に額を寄せた。
どうか届いて欲しいと祈りながら。