第5章 旨いバランス
「もう一度言う。甘井、狐塚からは離れろ。アイツの抱えてるもんはヤベー。術式も相まってかなりだ。正直、お前の手に負える奴じゃねぇ。面倒くさいことになる前に。今ならまだ戻れる。離れるってんなら、まぁ、それなりに手は打ってやる」
日下部さんは真面目な顔でまっすぐ俺を見てくる。
「離れる場合、どうするんですか?」
「とりあえず、お前はここで講習終了で離脱だ」
「…もし、離れないって言ったら…?」
「それが一番面倒くせぇ」
日下部さんが溜息をつく。
「さっきも言ったが狐塚の術式は『忌名昏々』とは言いつつも名前はただのトリガーにしかすぎない。あれの本質は当人間の関係性だ。一緒にいる時間が長いほど…最悪、狐塚の一言で死ぬぞ?」
「……」
「やめとけ。これはアイツの問題であって、お前が抱えるもんじゃねぇ」
違う。
そうじゃないんだ、日下部さん。
「…が悪いんじゃない…」
「ん?」
「…が問題なんじゃない。がそんなことしなきゃなんない関係性が問題なんじゃないんスか…?」
日下部さんが目を見開いた。
日下部さんがこんだけ言ってくれてるのにそれでも俺が言い返してくることに驚いたのかもしれない。
わかってる。
日下部さんは俺のためを思って言ってくれてるんだ。
けど…
「…、この一ヶ月一度も術式を使ってないです」
日下部さんは黙って聞いてくれる。
「この前、日下部さんに術式を使った日に、俺、もう術式を使わないでほしいって伝えたんだ。その時は聞き入れてもらえなかった。でも、さっきの資料見て納得した…やっと手に入れた自分で自分を守れる力、使うなっていう方が無理な話なんだよ……でも、ちゃんとが安心できる場所があれば、だって…きっと…」
「この一ヶ月がブラフだって可能性もあるだろ」
きっと百戦錬磨の術師ならそう考えるんだろうな。
でも、俺は戦ったことなんてないクソ弱術師だから。
「そうかもしれない…けど、俺は…漫画読んで笑って、ゲームで勝って笑って、俺のことイジって笑って、たまに機嫌悪くなって荒れて、それでも甘いもん食ってまた笑ってる…そんなを…俺が見てきたを…信じたい、です…」