第5章 旨いバランス
「甘井、全部読まなくていいぞ。これは高専側の記録だ。お前に読ませる為のもんじゃねぇ」
こんなものが高専側に残るのか?
それをが知ったらどう思う?
腹の奥が熱くなった。
でも、それをどこにぶつけていいかわからない。
俺は日下部さんをまっすぐ見た。
ちょっと涙目になっててかっこ悪いかもしれないけど、構わない。
「いえ、最後まで見ます。を知るために」
六枚目。
写真がある。
誰かが横向きに寝ている。
腰から下で顔は写っていない。
でも、もう誰かなんて分かりきっている。
シーツに…赤い染み…
『初夜は当主様にお願いした。かなり抵抗して数人掛かりで押さえなければいけなかった。それでも初夜なので甘味を渡したが今後の対応は検討しなければいけない。当主様からは畑の具合は良いとのお墨付きを頂いた。これからは皆で畑を耕しながら種を蒔き芽吹くのを待つ』
ダンッ!
思わず机を拳で叩いていた。
机に押し付けた拳がブルブルと震える。
抑えろ。
今、怒ったってどうにもならないのはわかっているだろ。
それからはの写真は無くて、ノートに書かれた文章だけが載せられてる。
やれ誰々に種を蒔かせたとか、やれまだ芽吹かないとか。
で、
『もう三年も芽吹く気配がない。卒業すれば外に出す必要もないから卒業後は種付けに専念させなければ。もう子どもでもないし甘味は必要なし』
『がいなくなった。探して連れ戻さねば』
記録はそれが最後だった。
たぶん、は中学卒業後に家から逃げたんだと思う。
俺は腹の中の澱んだ物がどうしようもなくて大きく息を吐いた。
「日下部さん、術師の家系ってこういうのが普通なんですか?」
「これが普通なワケねーだろ。でも、旧家であればあるほど術式を持たない奴の肩身は狭い傾向はあるっちゃある」
日下部さんの頭の中には真希さんのことがあるはずだ。
あの人だって一族滅ぼしてるし…
「は家出た後、どうしてたんですか?」
日下部さんが書類をまためくる。
「その後は都内の繁華街での目撃情報があるくらいだ。ああいう過去があるんだ。そういうことで生計立ててた可能性も大いにあり得る」
街の防犯カメラ映像にのような人物が映ってる。
どれも違う相手と親しい感じで歩いてる。
笑顔の仮面をかぶって。