第5章 旨いバランス
「…日下部さん…これ、日付…間違ってませんか…?」
「間違ってねーよ」
間髪入れない返答に嘘はないと思う。
じゃあ、この日付…
これ、渋谷事変が起こったすぐ後。
死滅回游が始まってすぐの頃。
が術式開花して、すぐの頃。
「この現場にって…」
日下部さんが黙って報告書をめくる。
事案現場じゃない写真。
どこかの監視カメラみたいな画角の写真が二枚目。
屋敷の出入り口だろうか?
写真の右下には日付と時間がついていて、一枚目は2018/11/2、二枚目は2018/11/4。
一枚は一人の人が入っていくところ。
もう一枚がその人が出ていくところ。
背格好はに似ている。
顔は画像が荒くてはっきりとは見えない。
「…これだけじゃがやった証拠にはなりませんよね?」
「これだけじゃあな。ただ死んだ奴らの死亡推定時刻に狐塚以外の人間の出入りはねぇ。限りなく黒に近い」
「いや、でも、って力はないから、こんな人数殺すことなんか…」
日下部さんはまた紙をめくって、事案報告書を一枚目に戻した。
文章の羅列の中に死亡した人の名前と死因が書かれている。
「死んだ奴らは全員自死か自死した奴に殺される、所謂心中ってやつだ」
「…が術式で自分で死なせたり、他人を殺させたりしたって言うんですか…?」
日下部さんは何も言わない。
ただ怒ったような顔で俺を見てる。
「そんなこと、できるワケないですよ。だっての術式は名前を呼んで、ちょっとしたお願いをきかせるってだけで……お願いされて死ぬ人間も人を殺す人間もいないでしょ…」
「お前、狐塚の術式が本当にそれだけのもんだって思ってんのか?」
「え…?」
「アイツの術式、強化条件の三つ目。の名前を呼んでいる期間や回数で術式効果が上がるって言ってたな」
「はい」
「じゃあ、その術式効果はどこまで上がる?」
「いや…わかんないですけど…」
「もしそれが天井知らずなら?」
術式効果が上がり続けたら…
「きかされるのはお願いだけじゃ留まらねぇんじゃねぇのか?自死や殺人を強制できる可能性は十分にあるだろ。それこそ家族や親戚なんてアイツが生まれた頃から名前呼んでるわけだしな」
「でも…」
それだって可能性の話だろ。